私が介護の経験で感じたのは、介護とは身体面、精神面、経済面、すべてにおいて大変だということ。
在宅介護をしていたときは体力も使いますし、一緒に暮らしてきた家族が弱っていくのを近くで見守る精神的つらさもあります。
しかもそれだけでなく、介護にはお金がかかります。
特養などの施設に入る場合などは毎月の高額な費用が必要です。
私の祖母は認知症が悪化し、最終的には特養へ入所しましたが、介護保険の軽減制度の一種である「負担限度額認定証」のおかげで費用が劇的に軽減されました。
制度を知らずに損することは、もったいないことです。
そのときの知識が介護者の方の参考になればと、「負担限度額認定証」にフォーカスをあて記事をまとめました。
負担限度額認定証とは?
そもそも負担限度額認定証とは何なのか‥
ケアマネや施設から、「費用が安くなるから市役所でもらってきてね〜」と言われ、よくわからないけど言われるがままにという方も多いはず。
大丈夫。私もそうでした。
漠然と「費用が安くなる」という認識はありましたが、負担限度額認定証をもらうための条件や、何がどう安くなるのかはさっぱり。
ということでまずは制度のポイントです。
負担限度額認定証とは
対象施設で「食費」と「居住費」が安くなる介護保険法に基づいた軽減制度
詳しく見てみましょう。
負担限度額認定証の対象施設は?
負担限度額認定証を持っているとどこで使えるのでしょうか。
対象施設は4種類
- ショートステイ(短期入所生活介護、短期入所療養介護)
- 特養(特別養護老人ホーム)
- 老健(老人保健施設)
- 病院内の介護病棟、介護ベッド(介護療養施設、介護医療院)
「ショート」「とくよう」「ろうけん」というワードは聞いたことがあると思います。カッコ内は正式名称。
用語解説は参考です。読み飛ばしても問題ありません。
用語解説
ショートステイ
普段自宅で生活されている方が、短期間だけ施設に宿泊滞在しながら介護を受けるサービス。自宅では暮らせないが施設も順番待ちで入れない方が長期間滞在する、俗称「ロングショート」という使われ方も例外的に。
特養
施設で暮らしながら介護を受けるサービス。生涯そこに住むことが多いので入所の待機人数が多い。
老健
一時的に施設で暮らしながら介護を受けるサービス。医療法人が運営しているので医療体制が整っている。病院を退院後、自宅に戻る前のリハビリ的ポジションとして利用されるほか、自宅で暮らせない方の特養入所待ちに使われることも。
介護病棟
病院では医療保険が適用されるが、病院の中の一部を介護保険適用の施設と扱っている。介護と医療が常時必要な方が利用する施設。廃止が決まっていて、同じ趣旨の「介護医療院」という施設や老健への移行期にある(30年度現在)。
グループホームや有料老人ホームは対象?
グループホームや有料老人ホームなどは負担限度額認定証の対象施設ではありません。
ただし、グループホーム入居者を対象として市町村が独自事業で費用助成をしているところもあるので、お住まいの市町村に確認することをおすすめします。
負担限度額認定証とは別ですが、横浜市や名古屋市などはグループホームが安くなる制度があるようです。
施設でかかる費用の種類は?
負担限度額認定証があれば食費と居住費が安くなるということですが、そもそも費用の全体像はどういう風になっているのでしょうか。
施設の費用は4種類
- 介護の費用(介護保険適用)
- 食費
- 居住費
- その他雑多な費用
本来、介護保険の対象になるのは、「1.介護の費用」のみ。
それ以外の2〜4については、自宅で普通に暮らしていてもかかるものだし、介護と直接関係ないよね〜
ということで原則的に保険給付対象ではありません。
ただし、それだと生活が苦しい方が、高額な介護施設サービスなどを利用できない場合があるので、一定の条件を満たした方に「負担限度額認定証」を交付し、施設に提示すれば「2.食費」と「3.居住費」が安くなる仕組みが作られました。
ちなみに、「1.介護の費用」以外は施設が決めるため、食費、居住費は施設によって違います。
【重要】費用軽減における負担限度額認定証の絶大な威力
ここがメインといっても過言ではありません。
認定証を持っていることによって、どれだけ費用がお得になるかのイメージを持ってもらうために試算をしました。
特養に入所している場合に、負担限度額認定証の有無によって費用にどれだけ差が出るかの実験です。
負担限度がない場合は施設によって料金が違いますが、厚生労働省が費用平均値として給付の基準にしている基準費用額を用いて計算しています。
負担限度なしの月額費用
(食費1,380円+多床室代840円)×31日=68,820円
負担限度ありの月額費用
(食費650円+多床室代370円)×31日=31,620円
月の差額
68,820円-31,620円=37,200円
年額
37,200円×12か月=446,400円
その差額、なんと年額で44万円以上!
しかし驚くのはまだ早いです。上の試算は「負担限度額認定証の軽減が一番少ない段階」と「一番安い多床室にうまく入れた場合」。すなわち差が一番開かない状況を想定した計算です。
逆に一番差額が大きいケースはこちら
負担限度なしの月額費用
(食費1,380円+ユニット型個室代1,970円)×31日=103,850円
負担限度ありの月額費用
(食費390円+ユニット型個室代820円)×31日=37,510円
月の差額
103,850円-37,510円=66,340円
年額
66,340円×12か月=796,080円
その差額、なんと年額で79万円以上!
負担限度額認定証の絶大な費用軽減効果がわかっていただけたかと思います。
負担限度額認定証を手に入れるための要件
該当要件は2つ
- 世帯全員が住民税非課税
- 本人の金融資産が1,000万円以下、配偶者がいる場合は夫婦合わせて2,000万円以下
金融資産について
対象となる金融資産については厚生労働省が例を出しています。
平成30年度現在では生命保険や不動産は対象外です。
金融資産とは
- 預貯金(普通・定期)
- 有価証券(株式・国債・地方債・社債など)
- タンス預金(現金)
- 投資信託
- 金・銀(積立購入を含む)など時価評価額が容易に把握できる貴金属
金融資産の要件は平成27年8月から追加されており、申請時にすべての通帳のコピーなどを確認されます。
負担限度額認定証の申請時には、市町村が金融機関に調査をかけるための同意書を書かされるので、後から親の通帳が見つかって実は要件を満たしていなかったという場合は、ばれると過去に遡って取り消されます。
また、財産があるのに隠すような「虚偽の申告による不正」は取り消しだけでなく、加算金が徴収できる旨が介護保険法に規定されているので気を付けましょう。
別居の場合などは特に、親の財産をすべて把握していない「やむを得ないケース」はあると思いますが、親の財産などは日頃からなるべく把握し、把握しているものについてはきちんと申告する必要があります。
なお、配偶者以外の家族の金融資産は関係ないのでご安心を。
該当した場合の利用者負担段階
負担限度額認定証には1~4の段階があります。
先の2要件を満たして負担限度額認定証をもらうときに、収入状況に応じて「どれだけ安くなるか」のランクわけがされます。
第1段階
生活保護か老齢福祉年金を受給している特殊な方なので関係ないと思います。
老齢福祉年金とは、一般の人がもらっている国民年金の老齢年金とは別物で、明治や大正初期の生まれの方が受給できる特殊なものです。
第2段階、第3段階
該当すればこのどちらかになります。
ごちゃごちゃ書いていますが、収入が年金しかない方の場合は、要するに「年間で年金いくらもらいましたか?」と聞かれています。80万円以下なら第2段階。80万円を超えていれば第3段階です。
年金以外の収入があるかたは、所得の知識が必要になります。
こちらの記事で、収入、所得などの専門用語の解説や住民税計算の流れを簡単に説明しているので参考にどうぞ。
第4段階
非該当のことを指します。この場合は施設が定める食費と居住費を支払うことになります。
4段階と2段階では、最高で年額79万円の費用の差が出てくるので簡単に諦めてはいけません。下記の記事で非該当を覆すための方法を解説しているので、無駄な費用を払わないためにも是非参考にしてください。
ちなみにうちの祖母も次のリンク先の方法で非該当判定を3段階へと覆しました。
1日あたりに負担する限度額
各利用者負担段階の場合、どの部屋タイプのときに、限度額がいくらかという対応表です。例えば、第2段階の人が「老健の多床室」へ入所すれば、1日に支払う費用は、食費390円、居住費370円です。
第3段階の人が「ユニット型個室」へ入所すれば、1日に支払う費用は、食費650円、居住費1,310円です。
用語解説
多床室
複数名が同じ部屋にいる大部屋です。
従来型個室
普通の個室です。部屋から出ると廊下につながります。
ユニット型個室
個室ですが、部屋を出るとリビングのような共有スペースになっています。数室を1つのユニットとしていて、集団での関わりを持ちやすいようになっています。
ユニット型個室的多床室
ユニット型個室と一緒ですが、部屋が壁で仕切られた完全な個室ではなく、大部屋を仕切りで区切っています。その分費用は安いです。
申請方法
必要なものは3点。これをそろえて市役所の介護保険担当課へ申請します。
- 申請書
- 金融機関照会の同意書
- 金融資産の残高がわかるもの
通帳などはあらかじめ記帳することを求められます。
「残高がない通帳はいらないか」と思いがちですが、ないことも確認する必要がありますので全通帳等が対象です。
株式、社債、国債、投資信託などの金融資産の確認方法は、残高証明の取得、現物の提示、ネット口座をプリントアウトしたものなど、まちまちのようなので、各市町村に確認するのが間違いないでしょう。
以上、負担限度額についての解説でした。