介護保険のヘルパーさんには、何でもしてもらえると思いがちですが、実はできないことがたくさんあります。
介護保険は、みんなの税金や保険料を使った公的な制度なので、一定のルールに基づいて運用されています。
そのため、いろいろな制約に縛られており、ヘルパーが援助してしてあげたいと思っても援助ができないことがあるのです。
ヘルパーの行為を制約する主なものは次のとおり。
注意ポイント
- ケアプランに書いてあることしかできない
- 日常生活の援助しかできない
- 医療行為等はできない
- 家族への援助はできない
それぞれ具体的に説明していきます。
ケアプランに書いてあることしかできない
公的な介護保険制度の大前提として、ケアプランに書いてあること以外の支援はできません。
事前に決められたケアプランの内容にそって、予定どおりヘルパーが支援していくことになるので、
「予定にはなかったけど買い物行って来て~」
という急なお願いは基本的に通用しません。
ケアプランでは週何回程度、何曜日の何時にヘルパーが来て、どんな業務をするということが事前に決められています。
もちろん事前に決める際には、利用者や家族の要望を伝えることが可能ですが、それが全て聞き入られる訳ではなく、客観的な状態像を基に、必要最低限の支援をしていくことになります。
最低限の介護サービスがケアプランに位置付けられる
介護保険では、ケアマネが利用者の状態像・ニーズを把握して、必要な介護サービスをケアプランに位置付け、まずはケアプランの原案を作成します。
次に、サービス担当者会議というものを開いて、ヘルプなどの利用しているサービス各担当者から原案に対する意見をもらい、最後に利用者の確認印をもらってケアプランが完成するという仕組みになっています。
公的な制度なので、ケアプランに位置付けるサービスは、利用者本人が自立した日常生活をおくる上で、必要最低限の行為だけとなります。
朝起きてから夜寝るまでの間の、食事や服薬、移動の介助、トイレや入浴、掃除、洗濯、調理など、そういった生活の基本的な行為について、ケアマネは利用者や家族が自力でできること、できないこと、できる場合はどのくらいできるのかという状態像を把握して、できない部分を介護サービスで補完するというイメージです。
なので、趣味や旅行などのためにヘルパーを派遣してもらうことはできません。その場合は、保険を使わずに全て自費で対応してもらいましょう。
以上が、「ケアプランに書いてあることしかできない」というヘルパーの1つ目の制約です。
日常生活の援助しかできない
次に2つ目の制約についてです。
最低限の行為しか援助ができないというのは、既に述べたとおりですが、ここでは「日常生活上の最低限の援助」として具体的に何ができるのか、どこまでOKなのかについて言及してきます。
「ヘルパーができること」=「日常生活上の最低限の援助」ということですが、漠然としていますね。
実は、ヘルパーができる行為については、「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について(老計第10号)」という厚生労働省の通知の中である程度定められています。
できることをおおまかに分類すると次のとおり
【身体介護】
身体介護とは、利用者の体に直接触れながら行うことを基本とする身体的な行為です。
- サービス準備・記録等
- 排泄・食事介助
- 清拭・入浴・身体整容
- 体位変換・移動移乗介助・外出介助
- 起床及び就寝介助
- 服薬介助
- 自立のための見守り的援助
【家事援助】
家事援助とは、利用者と身体的な接触のない家事等の支援です。
- サービスの準備等
- 掃除
- 洗濯
- ベッドメイク
- 衣類の整理・被服の補修
- 一般的な調理・配下膳
- 買い物・薬の受け取り
厚生労働省の通知内には、それぞれの項目について、もう少し細かく詳しく書いてありますが割愛します。
改めてまとめると、上にあげた身体介護、家事援助に分類される行為以外はヘルパーは行うことができないということです。
次に、それぞれの行為について、具体的に何をどこまでできるのか、という点が問題になってくるのですが、ここは非常にグレーな部分です。
最低限の日常生活なんて人によって違う中で、一般的な基準を無理やり探っていくことになるのですが、市町村によって、場合によっては担当者次第で答えが変わってくることもあります。
ケースバイケースなのは現場でも同じで、利用者、ヘルパー、業者が違えば微妙に扱いが変わってくるなんていうこともあります。
介護とは人に対する仕事であり、個人の価値観も入ってくる話なので、ある程度のグレーな部分を持たせるのはしょうがないのかもしれませんね。
という前置きのうえで、ここではヘルパーができる行為の中でも特に論点になりやすい点にしぼって解説します。
日常生活の範囲を超えている行為はできない
どこまでが日常の範囲かという問題です。
例えば、先に確認した通り、掃除についてはヘルパーができる行為として認められています。
しかし、日常生活の範囲内という制約がついたときにどこまでできるのでしょうか。
よく議論になる点として、「掃除」と「大掃除」の境目はどこかという話があります。大掃除は日常的ではないからヘルパーができないという理屈ですね。
結論としては、この答えは自治体によってまちまちです。
例えば、エアコンの掃除はフィルターを外さなければOKとか、窓のガラス拭きやはNGとか、市町村ごとに基準を持っているようです。個別の不明な点はお住まいの市町村に確認するしかありません。
参考になるものとして、この点については兵庫県が資料を出しており、
「ヘルパーがしなくても日常生活に影響ないよね」という点として、
- 草むしり
- 花木の水やり
- 犬の散歩等ペットの世話
を挙げています。公的な介護の範囲ではないということですね。
そのほか、「日常範囲を超えてるよね」という点として、
- 家具の異動、修繕、模様替え
- 大掃除
- 園芸
- 正月などイベント用に手間をかけて行う調理
などを例として挙げています。
全国統一の答えではないですが参考になる資料です。
外出の範囲について
外出の範囲についてもよく問題になります。外出介助の行為自体は保険適用が認められていますが、どこに何のために外出する場合ならOKかという議論があります。
ネットで調べてみると、次の目的の場合はNGの自治体が多いように感じます。
- 地域行事への参加
- 冠婚葬祭
- お見舞い
イベント系は基本的には家族で対応すべし、ということのようです。
お見舞いは家族の場合で、着替えなどを持っていくような場合は認められるというところもありました。
反対に、次の目的の場合は、OKとしているところが多いようです。
- 介護施設の見学
- 一人では外出困難なものに対する買い物
- 選挙
介護に関すること、日常生活上やむを得ないこと、国民の権利義務の行使等であれば認められやすいようですが、先に挙げたNGの例も含め、最終的には保険者である市町村判断になるので、不明な点は相談しましょう。
医療行為はできない
医師や看護師等の免許を持たずに医療行為を行うことは法律などで禁止されています。
何が医療行為に当たるのか、明確ではない部分が多いですが、「少なくともこれは医療行為じゃないよ」という例示をした通知が厚生労働省が出ています。
- 体温の計測
- 血圧の測定
- パルスオキシメーターの装着
- 軽微な傷、やけど等について専門的な判断や技術を必要としない処置
- 一定の条件を満たした上で、医薬品の使用の介助
上記はあくまで通知の概要を書いただけで、もう少し詳しい条件などもあるので、正確な条件などは通知の確認、自治体への確認が必要になりますが、少なくとも通知内の行為は条件を満たせばヘルパーが行うことも可能です。
逆にいえば、それ以外は基本的にはヘルパーはできないということになります。
中には「たんの吸引」などは医療行為であっても、研修修了などの条件を満たした介護職員が実施できる例外もありますが、基本的にヘルパーは医療行為ができないと考えておきましょう。
家族への援助はできない
最後に、介護保険では、家族のための行為や家族がすべき行為は保険が使えません。
この点は「直接本人の援助」に該当するかという点で判断することになります。
例えば、利用者以外のものの洗濯、調理、買い物などは原則行えません。
介護のために集めたみんなの税金などを、要介護状態じゃない人のために使ってしまうと不公平だという発想です。
「元気な家族が同居している場合は、家事援助を使えません」という理由で、掃除、洗濯、調理などを断られるケースが多いですが、公平性の観点から制度上で禁止されているからです。
家族の同居に関しても論点があり、同一敷地の別宅ならOKであるとか、家族に疾病がある場合、疾病はないがとても介護ができる状態じゃないときは、介護保険でヘルパーにお願いできるのか、という点の解釈はこれまた市町村によって判断が異なります。
困ったケースがあれば、市町村に確認してみましょう。