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介護保険を利用した住宅改修のススメ!知っておきたい手続きの流れや注意点

在宅介護

年を重ねて体が不自由になったとしても、長く住み慣れた自宅での暮らしを続けたい、ご近所や地域と交流したいと思う高齢者は少なくありません。

そんなごく自然な願いを叶えるのに有効な方法の1つが住環境の整備です。高齢者が残された機能を活用して自立した生活を少しでも長く送るために、その人の身体機能や生活スタイル、習慣などを考慮した住宅改修が、自宅で暮らし続けるための大きな助けとなるのです。

介護保険制度では住宅改修に関する費用の一部を補助する制度がありますが、その内容について詳しくはよくわからないという方も多いのではないでしょうか。

今回は、介護保険を利用した住宅改修について手続き方法や流れ、注意点をわかりやすくご紹介します。後悔しない住宅改修を行い、安全に住み慣れたご自宅で生活をし続けるための参考になさってくださいね。

介護保険の住宅改修とは

住宅改修の概要について

介護保険の住宅改修とは、所定の小規模な住宅改修を行ったときに、介護保険から20万円(うち利用者負担は1割~3割)を限度にその費用が支給されるという介護サービス(居宅サービス)です。

補助額は原則として一生涯に20万円です。(この点については例外もありますので、後ほど解説いたします。)一度に20万円分を使い切らなくても、必要に応じて何度かに分けて利用することもできます。もちろん、20万円を超える部分については全額自己負担となります。

1件の住宅に夫婦2人など複数の利用者が住んでいるケースでは、一人ずつに支給限度額20万円が与えられることになります。この場合、対象となる工事が同じ場合は重複して請求することはできません。

住宅改修の目的や意義について

例えば、屋内のちょっとした段差や昔ながらの和式トイレなど、若いころはなんでもなかった箇所が、老化によって危ない、しんどいと感じるようになることがあります。そのような不都合な部分を改修するための費用を介護保険から支給することで、利用者も介護者も安心して自立して暮らしやすい住環境を整えることが目的です。

国としても超高齢化につれてどんどんと膨れ上がる介護給付費用を何とかして抑制したいもの。利用者が介護費用の負担が大きい施設に入所するよりも、在宅での生活を続ける方が国の介護給付費用の負担を減らすことができるのです。

対象者について

介護保険に加入しており、要支援1、2または要介護1~5の認定を受け、原則として自宅で生活をされている方です。一時的に子どもの家に身を寄せている場合などは利用できないのでご注意ください。

介護保険の補助の対象となる工事は6つに限定

介護保険で住宅改修ができるのは下記の6つに限られています。高齢者の住宅内の事故として多くを占める転倒や転落を防ぎ、身体の負担を軽減して少しでも安全に生活できる住宅にするための工事です。

1.手すりの取付け

手すり
廊下・トイレ・浴室・玄関などへ転倒の防止や予防のために、移動や移乗動作の際に必要な手すりを設置する工事です。使いやすい位置に体格や症状に合った手すりがあれば、立ち上がりや着座、移動が安定します。

2.段差や傾斜の解消

段差解消
居室・廊下・トイレ・浴室・玄関等の部屋間を行き来する際の段差を解消するために、敷居を低くもしくはフラットにしてつまづきにくくしたり、スロープなどを設置して車椅子でも通りやすくすることで安全な移動ができるようにしたりする工事です。

3. 滑りにくい床材・移動しやすい床材への変更

滑りやすい床
滑りやすい居室・廊下・浴室などの床を滑りにくい床材や舗装材へ変更しする工事です。階段に滑り止めを付けることも含まれます。移動しやすさを改善する工事としては、例えば屋内で車椅子を使用するのに畳敷きだと移動しにくいので、移動しやすいフローリングの床材に変更するケースなどがあります。

4. 開き戸から引き戸等への扉の取替え、吊元・ドアノブ交換

引き戸
高齢になって下半身の筋力が弱くなったり、バランス感覚が低くなったりしたために扉を開ける際に踏ん張った足を滑らせたり、手の筋力が弱くなったことでドアノブを引いて扉を開けるのに時間を要したりすることがあります。

開き戸から引き戸、折れ戸、アコーディオンカーテンなどへの交換、扉の撤去、ドアの吊元の左右変更、ドアノブの変更、戸車の設置といった工事を行うことで、力を入れなくても安全に居室や浴室、トイレなどのドアの開閉ができ、利用者がより安全に屋内を移動しやすくなります。

5. 便器の取替え

洋式トイレ
和式から洋式へと便器を取替えるケースが一般的です。麻痺側など身体状況に合わせて使いやすくなるように便器の向きを変える工事も含まれます。便器を適切なものに取り換えることによって、足腰が弱ってきた方の排泄動作時や立ち座り時、衣類の着脱時の身体への負担を減らすことができます。

ところで、和式便器から暖房便座や洗浄機能付き洋式便器への取り換えは対象となりますが、洋式便器から暖房、洗浄機能付き洋式便器への取り換えは対象外となります。また水洗化工事も介護保険給付は認められませんのでご注意ください。

6.その他これらの改修に付帯して必要となる工事

1~5の住宅改修に伴って必要となる改修工事は介護保険給付の対象となります。例えば、手すりの取り付けや床材変更のための壁や床の下地補強、扉を取り替える際の壁や柱の改修工事、浴室の床段差解消に伴う給排水設備工事などです。

介護保険の住宅改修には準備が必要?手順と必要書類とは?

必要な住宅改修を行った場合、介護保険から20万円を上限として負担割合(対象となる工事費のうち1~3割は自己負担です)に応じた費用の支給を受けられます。

利用者にとって不適切な住宅改修が行われるのを防ぐために、介護保険を利用した住宅改修の工事を行う前後にはお住まいの市区町村へ申請する必要があります。

以下で、その手順を説明していきます。今回はいったん利用者が工事費全額を支払い、後から費用給付を受ける「償還払い」で住宅改修を行った場合についてご紹介します。

介護保険で住宅改修を行う流れ

step
1
ケアマネへ相談

step
2
施行業者を選ぶ

step
3
事前申請

step
4
工事着工

step
5
事後申請

step
6
住宅改修費の受取り

(1)ケアマネジャーなどに相談

担当のケアマネジャー、もしくは担当ケアマネジャーがいない場合は地域包括支援センターの職員等に住宅改修について相談することから始めましょう。利用者の暮らしにとっての住宅改修の必要性をプロの目でチェックしてもらうことができ、その後の手続きもサポートしてもらえます。

(2)施工事業者の選択・見積もり依頼

施工事業者に希望内容を伝えて見積書を依頼します。見積もりの内容や価格を確認して施工事業者を決めて、契約へと進みます。

この際、複数の施工事業所から見積もりを取るなど、失敗しない事業社選びのポイントについては後述する内容をご参照ください。

(3)市町村へ事前に申請

見積書や住宅改修が必要な理由書、改修前の図面など必要な書類を準備して、お住まいの市町村へ申請します。申請後、市町村にて審査が行われ、介護保険の適用が認められると「住宅改修の決定通知」が届きます。

必要な書類について詳しくは後述するのでご参照ください。

(4)工事の実施・完了。業者への支払

住宅改修の決定通知を確認してから、いよいよ施工業者が住宅改修工事に着工します。工事が終了したら、いったん工事費全額を利用者が施工業者へと支払います。(償還払いの場合)

(5)市町村へ領収書などを提出し支給申請を行う

償還払いであれば、工事後に利用者から市町村へ申請することで後から負担割合に応じた改修費が支給されます。必要な書類については、後述の内容をご確認ください。

(6)住宅改修費の支給

利用者に対し、支給決定額や支給日等が記載された「介護保険償還払支給(不支給)決定通知書」が送付され、市町村から申請者へ支給限度額20万円の枠内費用の7~9割が支給されます。支給には1~2か月かかる場合があります。

続いて、手順(3)(5)で触れた住宅改修工事前後の市町村への申請に必要な書類について詳しくご説明していきます。

必要書類の準備をぬかりなく!

保険者である市町村は利用者から提出された書類等で、保険給付として適当な住宅改修かどうかを判断します。よって書類に記載不備などがあると、申請後に住宅改修工事の承認が下りるのが遅れたり、請求した費用が支払われるのに時間がかかってしまったりすることがあります。市町村への申請に必要な書類は不備がないようにそろえましょう。

自治体のホームページで申請時の参考となる書式様式のデータがダウンロードできたり、申請手順等についても詳しく説明されていることが少なくありません。自治体によって必要な書類や書類名称が若干異なる場合があるので、介護保険での住宅改修について検討を始める際や実際に手続きを行う段階で、お住まいの自治体のホームページ等を確認されることをおすすめします。

工事前の申請に必要な書類は?

介護保険被保険者証と印鑑

住宅改修事前申請書
お住まいの自治体に所定の書式が用意されています。

住宅改修が必要な理由書
ケアマネジャーや作業療法士、理学療法士、福祉住環境コーディネーター2級以上の資格がある人が作成します。身体機能や動作レベル、日常生活の状況、介護状況、住宅改修を行うことで生活がどのように変化することが予測されるかなどが記載されます。

効果的な住宅改修を行うために検討する機会ともなり、保険者である市町村が住宅改修の有効性を判断するための大きな判断材料にもなります。

利用者を宛名とした「工事費見積書」
「〇〇工事一式」などではなく、具体的な工事にかかる項目や費用などを細かく記載することが求められています。

改修前の住宅の状況が分かる日付入りの写真

住宅改修後の完成予定の状態がわかるもの
写真もしくは平面図や断面図など簡単な図を用いたもの

住宅所有者の承諾書
賃貸住宅など被保険者本人以外が所有する住宅を改修する場合に必要となります。

工事後の支給申請に必要な書類は?

工事終了後に利用者から提出された必要書類を元に、保険者である市町村は事前申請時に提出された書類と合わせて、実際に工事が適切に行われたかどうかの確認を行い、住宅改修費の支給が必要だと認めた場合に、住宅改修費を支給します。必要な書類は以下の通りです。

住宅改修事後申請書
お住まいの自治体に所定の書式が用意されています。住宅改修に要した費用に関わる領収書の原本

工事費内訳書
工事内容や各費用について細かく記載されている必要があります。

住宅改修の完成後の状態を確認できる書類
改修箇所について改修前と改修後のそれぞれについて撮影日が分かる写真

業者選びで失敗しないために!複数見積もりをオススメします

住宅改修の工事は利用者本人と施工事業者との契約により行われますが、介護リフォームをうたう業者は数多くあり、広告宣伝もよく見かけるのでいったいどこに依頼すればよいかと迷ってしまう方もおられるでしょう。

国も複数見積もりを推奨

2018年8月から「現役並み所得」のある利用者については、介護保険の自己負担額が2割から3割に引き上げられました。これを受けて厚生労働省は、住宅改修を行う際に複数の事業者から見積もりを取ることを利用者に促すように、ケアマネジャーに義務付けています。

施工事業者によって工事費用や施工レベルのばらつきが大きいことから、利用者が不利益を受けないようにすることがその目的です。

見積書の内容も「〇〇工事一式」といった大雑把なものではなく、改修の内容や施工費、材料費の内訳が明確にわかることが求められています。2~3社に同じ希望、条件を伝えて見積もりを取って比較することで、住宅改修の内容や費用の妥当性を判断することができます。

施工業者選びのポイント。見積書の金額だけで比較しない!

施工業者を選ぶために複数見積もりをとって比較・確認していきますが、単に金額の高い安いだけではなく、見積もりに記載されている工事内容もきちんと確認することが住宅改修で失敗しないポイントです。

施工業者に福祉用具専門相談員や福祉住環境コーディネーターといった専門知識を持つ人がいるか、これまでの介護保険による住宅改修の実績数などを確認しておきたいところです。

施工業者に関する情報は、担当ケアマネジャーがいろいろと持っているはずなので、アドバイスを受けながら業者を選定していきましょう。

自治体によっては、自治体が主催する住宅改修の研修会に参加した業者名をホームページなどで公表しているところもありますので、そのような情報を参考にする手もあります。

気になる費用は?住宅改修の限度額と自己負担とは?

限度額について

介護保険の住宅改修への補助額は原則として一人生涯に一度きり20万円です。

「一度に20万円分すべてを使い切らないと損」というのは誤解です。必要に応じて何度かに分けて補助を受けることができます。例えば、最初に5万円分の工事を行い、次に10万円分の工事を行っても、まだ5万円分の枠が残っていることとなります。焦って一度に不要なところまで大規模な住宅改修工事をする必要はありません。

また、高齢者夫婦など同じ家に二人の要介護者がいる場合は、それぞれに20万円の枠が与えられます。ただし、夫に必要な手すりを妻の枠を使って改修を行うことはできません。あくまで自分に与えられた20万円の枠を自分のために使うことになります。

この20万円の上限は最初に原則と書いたとおり例外があります。

介護の必要な程度が3段階以上あがった場合や転居をして新たな住宅で環境整備をする必要がある場合などは、上限のリセットが制度として認められています。

詳細を図や表を使ってわかりやすくまとめているのでこちらも併せて参考にしてください。

在宅介護
介護保険の住宅改修の上限20万円をリセットする2種類の方法!

原則1回20万円の例外!3段階リセットと転居リセットとは? 介護保険による住宅改修費の助成の枠は、原則として一生涯に一度20万円が与えられます。 しかし「介護の必要の程度が3段階以上あがった場合」と「 ...

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給付額と自己負担について

介護保険の利用者負担割合は、65歳以上の方は1割、一定以上の所得のある場合は2割、現役世代並みに所得の高い場合は3割と人によって異なります。ちなみに40歳から64歳までの利用者負担は一律1割です。

ご自身に適用される負担割合は、介護認定の際に保険者から届く「介護保険負担割合証」を参照してください。

介護保険負担割合証

こちらが負担割合証の見本ですが、色は自治体によってまちまちです。負担割合について詳しく知りたい方はこちらも参考にどうぞ。

給付の受け方2種類「償還払い」と「受領委任払い」の違いを知ろう

給付の受け方には「償還払い」と「受領委任払い」の2種類があります。

償還払いとは

住宅改修工事が完了したら、かかった費用全額を利用者がいったん立て替えて施工業者に支払い、その後市町村に申請して、後日に費用の自己負担分(利用額の1割から3割までのいずれか)を除いた残りの金額(9割、8割、7割)の払い戻し給付を受ける方法です。

例えば、1割負担で20万円の工事を行ったので18万円の補助が受けられるという場合も、いったん20万円を用意して施工業者に工事完了後に支払わないといけないということです。

受領委任払いとは

対して受領委任払いとは、利用者が工事費用の自己負担分(利用額の1割から3割までのいずれか)のみを業者に支払い、残りの工事費用は市町村から業者に直接、後日支払われるという方法です。

例えば、1割負担で20万円の工事を行い18万円の補助が受けられるという場合は、負担分の2万円のみを工事完了後に施工業者に支払えばよいということです。残りの18万円は自治体から施工業者に支払われます。

自治体によっては受領委任払いを選択できない場合の条件を示していることもあるので、事前にお住いの自治体にお問い合わせください。

償還払いと受領委任払いのどちらを選ぶか

どちらの方法を選んでも受けられる補助金額に違いはありません。ただし手続きの流れや提出書類は多少異なります。

契約できる施工業者については、償還払いの場合は好きな施工業者を選べますが、受領委任払いで工事を依頼できるのは保険者である市町村が受領委任契約をしている特定の業者に限られます。

また、償還払いと受領委任払いのどちらの支払方法を選ぶかによって手元に用意しなければならない金額が変わってきます。償還払いでは一時的とはいえ、まとまった金額を用意しなければなりません。

まとめ

たった1本の手すりで、利用者本人も介護者も驚くほど負担が軽くなり、安全性が上がることがあります。適切な住宅改修が行われた自宅で安全に暮らせるようになったことで、活動範囲が広くなったり、それまで手を借りていたことが自分でできるようになったりして要介護度が下がれば、介護費用の削減も期待できます。

住宅改修を検討したいという方は、まずは身近なケアマネジャーや地域包括支援センターの職員、または利用している介護サービスの介護職員などに相談することから始めてみましょう。

身体機能や生活スタイル、家の構造などによって、住宅改修の必要箇所や理由は一人ひとり異なります。介護のプロから的確なアドバイスを受けながら、利用者本人や家族も参加してよりよい住宅改修プランを作成していきましょう。

いつまでも安全に安心して住み慣れた自宅で生活するために、今回の記事が納得のいく後悔しない住宅改修の一つの参考になれば幸いです。

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